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加賀伝統工芸を“見て、触れて、味わえる”、温泉宿「星野リゾート 界 加賀」の心地よさ

2016.03.22

石川県の名湯・山代温泉の中心地である「古総湯(こそうゆ)」「総湯(そうゆ)」の周辺は、老舗の宿が多く集まっている場所です。北陸特有の呼び名として「湯の曲輪(ゆのがわ)」と言われて親しまれていますが、その中で、築180年以上というクラシックな建物が現存し、圧倒的な存在感を放っているのが「星野リゾート 界 加賀(旧 白銀屋)」です。

「星野リゾート 界 加賀」(以下、界 加賀)は、1624年創業から多くの文化人を迎えてきた老舗旅館(白銀屋)を大改築し、伝統の中に現代的な文化や意匠を加えてオープンしました。

まず目を引くのは、加賀の伝統建築・紅殻格子(べんがらごうし)からこぼれる、やわらかな灯り。取材の日は北陸らしく雪がちらついていたので、この灯りが見えてくるとどこかほっとしました。日々、頑張っている働く女性たちも、訪れた瞬間にじんわりと心が和むでしょう。

赤壁と紅殻格子は凛とした佇まいと温かさを感じさせる

昔ながらの雰囲気を残す玄関を入ると、働く女性たちがゆっくりと寛げるような仕掛けがたくさん! なかでも、すべての仕掛けに伝統とモダンが融合しているところに、現代女性は居心地の良さを感じられるのではないでしょうか?

それでは、「界 加賀」の総支配人・柳 俊介さんにうかががったお話をもとに、ひとつひとつ、ご当地の魅力をひも解いていきましょう。

 

 

ロビーで目を引く、日常使いされた加賀水引のオブジェ

伝統の技と新しい感性がブレンドされた、キラキラ輝く水引オブジェ

フロントに入ると、加賀水引の美しいオブジェに目を奪われます。加賀水引とは、通常の水引結びとは異なり、折らずにふっくらとさせた形の美しさが人気を集めている伝統工芸です。

金沢市生まれの水引作家、廣瀬由利子さんの「光降る」と題されたこの作品は、金沢のぼたん雪に光が降り注ぐ様子をイメージしたものだとか。

廣瀬さんは、新しい水引の世界を探し求め国際文化交流に参加しました。そこで海外の方々が水引を学び新しいアイディアを取り入れていることに感銘を受け、"ハレ"の場だけではなく"日常でも楽しめる水引"をコンセプトに、和とモダンをテーマとした作品に取り組んでいます。

廣瀬さんは"伝統工芸とは人に愛され、使われてこそ、その価値がある"と語っていますが、その思いは「界 加賀」のコンセプトに合致しています。このオブジェは、目で見て楽しむだけでなく触ることもできるので、子どもにも大人気のようです。

さらにフロントで周囲を見渡すと、金具を一切使わず、木組みだけで作られている天井に驚くことでしょう。「枠の内」と呼ばれるこの建築方法は、現代では同じ材料で再現するのが難しいのだとか。

 

 

九谷焼と文化人に触れられる、ライブラリーと茶室で過ごす時間

北大路魯山人の書と、地域の魅力が詰まったトラベルライブラリー

風情ある日本旅館であった「白銀屋」時代には、大正、昭和期には多くの文化人が訪れていました。とくに、北大路魯山人(きたおおじ・ろさんじん)もよく滞在していたひとりです。

フロントのある伝統建築棟と、多くの客室がある客室棟を結ぶ中庭は、古きと新しきを結びつける太鼓橋となっています。タイルに色付けされたデザインは、加賀友禅を作る工程で、川流しの様子をデザインしたもの。

 

 

ロビーからお部屋に向かう途中にある、友禅流しをモチーフにした中庭

客室棟の、トラベルライブラリーと呼ばれている憩いの場には、魯山人の直筆の言葉が書かれた屏風が飾られています。魯山人は宿代として、自身の書や焼物などの作品を置いていくこともあったのだとか。大正・昭和の文化を垣間見て、昔の加賀の土地に思いを馳せるのもよいでしょう。

こちらでは、九谷焼で作られたオリジナルのカップ&ソーサーで、お茶やコーヒーを飲みながら、石川県や北陸にまつわる書籍や、全国の「界」のある土地の本を楽しむことができます。

九谷焼は、赤、黄、緑、紫、紺青の五彩を使用し、絵画的で大胆な絵付けが特徴です。伝統的な力強く華やかな図柄や色使いだけでなく、現代のセンスを生かしてカラフルでポップな作品も多いので、私たちの普段の生活でも取り入れやすいと評判です。

ライブラリー奥の庭に配された茶室では、九谷焼の茶器で抹茶と和菓子をいただける時間もあります。

 

 

茶室で抹茶を、九谷焼の茶器で楽しめます(無料・毎日15時~18時)

 

 

加賀の伝統工芸は、併設されているショップで購入可能(上から時計回りに、山中漆器の器、加賀友禅モチーフの手ぬぐい、パステル色の加賀水引の箸置き、九谷焼の豆皿)

 

 

夜は、ライブラリーで「界 加賀」のスタッフによる加賀獅子舞のおもてなし

 

 

伝統とモダンが融合した、優雅な「加賀伝統工芸の間」

それぞれの客室に「界 加賀」オリジナルの九谷焼の茶器が。ほっこりとしたお茶の時間を

 

 

ローベッドとソファを配置したモダンな空間に、加賀水引や加賀友禅を散りばめて

今まで見てきたような地域の伝統は、客室にも散りばめられています。

加賀地方を代表する伝統工芸をあしらったご当地部屋「加賀伝統工芸の間」は、九谷焼、山中漆器、加賀友禅に加賀水引......と、伝統が一度に満喫できる空間。

床の間には、九谷焼タイル、山中漆器のアートパネル、加賀水引のアート額のいずれかが飾られています。障子は、加賀水引を貼り合わせた水引障子となっていて、紅殻色や加賀五彩と言われる藍や古代紫などの色味でアクセントをきかせています。寝室は、加賀友禅の絵柄をモチーフにした友禅パネル、加賀水引で編んだ花紋などが施されています。

美術館などのように、ケースに入った工芸品を"見る"だけではどうしても伝統工芸との距離は縮まりにくいですが、このようにインテリアに応用されると興味も深まり、グンと身近に感じることができます。

加賀友禅作家の毎田染画工芸 三代目・毎田仁嗣さんのように、地元の若手作家と創り上げたオリジナルの工芸品に出合えるのは、「界 加賀」だけの楽しみですね。

 

 

肌あたりがやわらかな、美肌の湯で美しく!

美肌の湯と呼ばれる温泉で美を更新!露天風呂から松も眺められる

山代温泉の性質は、とろりとした泉質で"美肌の湯"とも言われる評判の温泉です。露天風呂で四季折々に変わる庭を愛でながらの入浴は至福のとき。お風呂上がりに用意されている、上品な味わいの冷たい加賀棒茶もまた加賀の伝統のひとつです。全48室中、18室に完備された露天風呂でプライベート感を味わえるのも、リラックス度満点ですよね。

 

 

客室には、界オリジナルの風呂敷と今治のタオル。風呂敷は、旅館内のお風呂や「古総湯」などの外湯にでかけるときなどにも使える

「界 加賀」は、ふかふかのバスタオルや、使い勝手を考えて長めにつくったフェイスタオルなど、タオルの質にもこだわっています。

そして、せっかく山代温泉に来たのですから、宿のすぐそばにある「古総湯」へ行ってみるのもおすすめです。明治時代の総湯(温泉の共同浴場)を復元し、温泉の歴史や文化を体験できる共同浴場は、九谷焼の浴室タイルや木目の美しさが印象的な拭き漆の壁面、ステンドグラスなど、あちこちに明治時代のスタイルを採用しています。

空間も温泉も独り占めしたい方は、早朝に行くのがベスト(営業時間:6:00~22:00)。「界 加賀」では、タオルを入れたカゴを、古総湯と総湯に行く人に貸し出しをしているという嬉しいサービスもあります。地域と一緒に加賀の伝統を大切にしていることも現れですね。バラエティ豊かな温泉で加賀の風情を肌で感じながら、すべすべ肌になってしまいましょう。

 

 

魯山人の思いを受け継ぐ、器と料理の数々

のど黒をふんだんに使った春の夕食メニュー(一例)。料理に合わせた九谷焼で、舌も目もおいしい

お食事処では「器は料理の着物」と唱えた美食家・北大路魯山人の料理哲学にならった"料理と器のマリアージュ"をテーマに、料理人がメニューを考えています。春はのど黒、夏はアワビ、秋は海老、冬はずわい蟹と、どの季節に訪れても日本海の幸を存分に味わえますよ。

ここではそんなご当地の料理とともに、普段使いしたくなる九谷焼と山中漆器の器に触れることができます。山中漆器とは、天然木を輪切りにした縦木取りで木地をつくり、漆を塗って研ぐことを繰り返すことで、美しい光沢と深みのある色合いを表現しています。

今まで、焼物や漆器は見て美しいもの、と漠然と思っていた筆者ですが、実際に使うことで料理が何倍も美味しく感じられ、食事を終えた後はお腹だけでなく、心まで満たされたような気持ちになりました。見て楽しく、味わって美味しい料理の数々は、きっと豊かな満足感を与えてくれるはずです!


いかがでしたか? ご当地の魅力、文化を知ることのできる場所は数あれど、伝統工芸を"見て、触れて、味わう"ことがこんなにも身近にできる温泉宿は、なかなか少ないのではないでしょうか?

日ごろ忙しく仕事や家事に追われながら生活している私たちにとって、美しい伝統工芸に触れて、心身ともにリラックスすることが心の贅沢となり、明日の美につながります。

これから北陸にも、桜の美しい季節が到来します。総支配人・柳さんによると、春の桜の時季は、近くの大聖寺川の流し舟*と熊坂川の桜並木散策で、城下町のお花見を堪能するのもおすすめだそう。
*加賀温泉駅から大聖寺駅まで電車で4分。例年の桜の見ごろは、4月上旬~4月中旬です。

 

 

取材協力:星野リゾート 界 加賀
Text:Yuki Ishihara
Photo:Momoko Yoshikawa