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日本の自然の美しさを繊細、かつ大胆に描く加賀友禅~毎田染画工芸 三代目・毎田仁嗣さんに聞く

2016.03.30

2015年3月に開業した北陸新幹線。取材時には雪景色を見ることができましたが、 これから北陸も桜の季節を迎え、まだまだ大いに盛り上がりを見せる石川県、金沢&加賀。そのなかでも、石川県を代表する伝統工芸として知られているのが「加賀友禅」です。

そこで今回は、加賀友禅を三代に渡って受け継ぎ、日々制作を行っている毎田染画工芸の三代目・毎田仁嗣(まいだ・ひとし)さんを訪ねて、加賀友禅の歴史や魅力をうかがってきました。

自作の加賀友禅の着物を背に語る、毎田染画工芸 三代目・毎田仁嗣さん

 

 

金沢の風土と文化から生まれた自然を表現する加賀友禅

――毎田工芸では、加賀友禅の伝統を守りながら、新しい加賀友禅の姿を作っていらっしゃいます。初めに、加賀友禅の歴史や特徴についてお聞かせください。

加賀友禅は、宮崎友禅斎を起源に、17世紀後半から金沢の地に受け継がれている染色技法です。同様の技法を持つ京友禅がきらびやかな雅な趣であるのに対し、加賀友禅は落ち着きのある写実的な草花模様を中心とした絵画調の柄を特徴としています。これは、金沢の風土と、加賀の武家文化の社会背景に支えられてきたことによるものと考えられています。

季節のうつろいからリズムとパターンをつかみ取り、そこから得たイメージを加賀友禅の伝統的な技法で表現し、時代に合った作品づくりを目指しています。

 

 

加賀友禅の"ボカシ"の技法と落ち着いた色彩で草花を繊細に描く

反物に絵柄を糊付け。染画が出来上がるまでに、緻密なデザインとプロセスが存在している

――加賀友禅の技法の特徴は何でしょうか。

加賀友禅には、重要な技法があります。写実性を強めるためボカシを多用したり、虫食い(植物が虫に食べられている様子)などの技法を用いることが特徴ですね。また、花びらや葉などのモチーフを、外側から内側に向かってぼかしていくこともユニークでしょうか。リアリティを追求し、自然美を描き出しています。

色彩は多彩調で、加賀五彩と言われる藍、臙脂(えんじ)、黄土、草、古代紫を基調としています。

例えば、同じ「藍色」をとっても、微妙に濃淡が変わっているのが興味深いところです。草花や木々の1つひとつの色が違っていたり、「先ぼかし」の技法を惜しみなく使い、それぞれの枝葉に個性を出したりしています。細部にわたって、濃淡だけで終わらないこだわりを表現するんです。現在では幅広い色彩の加賀友禅が作られています。

 

 

350年以上も続く加賀友禅、そして毎田染画工芸

――昭和天皇に工房の工程表をご覧いただいたこともある毎田染画工芸の歴史について、お聞かせください。

私の祖父である、毎田仁郎(まいだ・じんろう)は、1906(明治41)年に金沢に生まれました。若い頃は病弱であったため手に職を付けたいと考え、京都の染め工房に入り友禅を学んだ後、戦争の悪化で金沢に帰り木村雨山先生に師事し加賀友禅の技術を身に付けました。雨山先生は父の師匠でもあり、自然から学ぶことの大切さを教えてくださったそうです。

祖父が制作をしていた時は、現在のように情報がない時代でした。そのため、鶴の作品を制作するために北海道に出かけて自然の姿を観察するなど、うわべだけの情報でなく自分の目で自然のありのままを観察することをとても大切にしていました。

父も、祖父の姿勢を受け継いで自然をテーマにすることが多いですね。とくにアケビや猫じゃらし、銀杏をテーマにするなど、身近なものに題材を求めることが多いように思います。

 

 

表現や技術を作品に反映させるため、工房で一貫して行う制作工程

絵付けを行う熟練の職人さん。毎田工芸では制作を一貫して行っている

一般的に友禅の作品は分業で作られています。具体的には、問屋が生地を仕入れ、下絵を描き、色塗りをする作家がいて、その柄に糊を乗せていく糊置き屋がいて、地染めや水洗いをする染屋がいて......と、様々な工程が各々の別な工房で進行していきます。

一方、毎田染画工芸では、そういった工程を工房内で一貫して行っています。そうすることで、作家は全ての工程を工房内で見ることができるので、意図や想いが作品により反映されやすくなると思いますね。職人の技術が集結した環境と仕組みが整っていますので、着物はもちろん、壁画、音楽堂の緞帳などのスケールの大きな作品の制作を行うことができるのです。

さらに「楽友禅」と呼ばれる、テーブルセンター、風呂敷、タオルなどのインテリアにも展開しています。軽くて繊細な生地に、グラデーションで染めて上げるストールは、普段の装いに気軽に取り入れやすいと人気のアイテムですね。加賀友禅を日常生活に取り入れて、楽しく使っていただきたいと思います。

 

 

加賀友禅の染色の技術を生かして一枚一枚、染めた絹のスカーフ。美しい色彩を装うことができ、女性に人気のアイテム

――世界にひとつだけのアイテムを持てることは、心を豊かにしてくれると思います。筆者もちょうど最近、金沢出身の友人が結婚前に加賀友禅の振袖を着納めている写真を見て、その着物の美しさと、時を経ても変わらない上品な優美さに目を奪われました。彼女は12年前に東京から金沢の工房まで足を運び、自分でデザインや色を決めたそうですが、世界で一着しかない着物ということに、とても愛着を持っているようです。

 

 

大学で学んだ建築を加賀友禅に生かし、新しい加賀友禅スタイルを提案

――加賀友禅を継承する家系に生まれたことで、仁嗣さんにとってこの世界に入られたのは、ごく自然なことだったのでしょうか?

加賀友禅が何かよくわからない小さな頃から、祖父や父のお弟子さんたちと一緒に毎日の食事を共にしていました。当時30人くらいのお弟子さんがいましたが、なかには住み込みの方もいましたので、それは賑やかな空間でした。祖父や父に連れられて展覧会や発表会に出かけることが多く、たくさんの人が集まっている様子もよく見ていましたね。物心つく前からやはり加賀友禅の魅力が染みついていて、自然と工房を受け継ぐ流れになったのかもしれません。

――毎田さんご自身は、加賀友禅を学ぼうと早くから弟子入りされていたんですか?

私自身は、大学時代には工学部で建築について学んでいたので、父に弟子入りをしたのは、大学卒業後なんですよ。ただ、学生時代から旅館や市役所などの壁画に加賀友禅が用いられているのを見て、着物とは違った形で楽しまれていることを知り、自分も今までにはなかった新たな提案ができるのではないかと可能性を感じていました。

実際、現在も「星野リゾート 界 加賀」とアイテム作りをコラボレーションするなど、インテリアやライフスタイルにおいてのご提案をさせていただくこともありますね。とりわけインテリア関連の作品については、図面から把握できるので、学生時代に学んだことが活きていると感じています。

 

 

オリジナリティのある、加賀友禅を作っていきたい

加賀友禅の今後の担い手として、伝統と伝承について力強く語る毎田さん

――三代目として、先代と違ったことをしたいという思いはあるのでしょうか?

私自身、好きなモチーフがあります。例えば、水の流れや動きを表現することが好きで、水面をテーマに、風による水のゆらぎや輝きを友禅の技法で表すことが多くありますね。

また、プライベートでは登山や写真を撮ることが好きなのですが、そのときに見た自然の様子や撮影した写真のなかにも作品のヒントになるものはたくさんありますね。

伝統と伝承という言葉はよく混同されていますが、友禅の世界に入り伝統と伝承とは大きく異なっていることを感じています。伝承とは、受け継ぐことであり同じ技術をそのまま継承すること。伝統は、技術を継承しつつも新しいことに挑戦し続けること。どちらも日本文化を守り続けるうえで大切なことだと感じています。私自身も、加賀友禅の魅力をそのまま継承しながら、自分の感性や思いをプラスしていく作品作りをしていきたいと考えています。

――最後に、日々やりがいを感じる事柄と、これからの思いをお聞かせください。

加賀友禅の技法の緻密さや色彩グラデーションに日々発見があることと、ハレの日を作る仕事であるということにやりがいを感じています。直接、お客様から喜びの声をいただくこともあり、お客様の大切な記念の日がより満足度が高いものになったとおっしゃっていただけることが嬉しいです。

加賀の女性は、加賀友禅などの伝統を日常に取り入れていたり、茶道や華道などのお稽古ごとをしている方も多く、立ち居振る舞いが美しい方が多いように感じます。加賀友禅がそういった女性の美しさをさらに引き出せる存在になれたら嬉しいですね。

これからも、飾ることない自然のありのままの様子が描きだされる加賀友禅の魅力を広く発信し、より多くの方に楽しんでもらえるように、継承と革新の思いを持って新たな制作に挑戦していきたいです。

 

 

取材協力:毎田染画工芸
Text:Yuki Ishihara
Photo:Momoko Yoshikawa