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見る芸術、食べる芸術 和菓子を通して見る「日本の美」

2016.09.16
五穀屋 山口良さん

「見る芸術」「食べる芸術」とも評される和菓子。今、注目の若手和菓子職人に、和菓子の魅力、作り手としてのこだわり、日本女性の美しさなどを伺います。

和菓子は「見る芸術」「食べる芸術」

五穀屋 山口良さん
和菓子職人である山口 良さん。料理の世界で腕を磨いた後、和菓子の道を志し、春華堂に入社。現在では、五穀屋のブランド全般で原料の選定から開発まで一手に担っている

―――山口さんは、和菓子だけではなく洋菓子の経験も積まれたそうですが、和菓子と洋菓子の大きな違いは何でしょうか。

山口さん:和菓子は「引き算」で創り上げるものだと思います。たとえば羊かんは、砂糖、寒天、あんこだけで作ることができますが、素材がシンプルだからこそ味に深みを出すのが難しいんです。味に深みを与えるために何かを足すのは簡単なのですが、それでは素材のおいしさを引き出せなくなってしまいます。だから、「どれだけシンプルにして、味に深さを出せるか?」。これをいつも頭に置いて、素材選びや作業工程一つひとつを大切にしています。

反対に洋菓子は、「足し算」のお菓子と言えるかもしれません。素材や作業工程が大事なのは和菓子と同じですが、色々な味の組み合わせや味の豊かさを楽しんだりするもののように思います。

日本は枯山水や水墨画のように、限られた材料で世界観を表現する文化があるので、そうした価値観が和菓子の根底にあるのではないでしょうか。和菓子は「見る芸術」であり、「食べる芸術」でもあるんです。

なぜ和菓子一筋ではなく、洋菓子の修業もされたのですか?

山口さん:和菓子職人としての幅を広げるためです。元々私は料理人をしていたのですが、そのときの師匠に「料理で最後に食べるものはデザートだ。だから、お菓子作りを極めてみてはどうか?」と勧められ、お菓子屋である今の会社に入りました。そして和菓子作りを学んでいたとき、「洋菓子を学ぶことは、和菓子を作るうえで大いに役立つ」と師匠に言われ、洋菓子の知識と技術の習得に励みました。実際、師匠の言う通りだったと思います。洋の素材や作り方を学んだことで、『この洋菓子の素材を和菓子に使うとおもしろいかもしれない』など、幅広い発想ができるようになったと思います。

和菓子職人的・感性の磨き方

五穀屋 山口良さん
素材選びも担っている山口さん。素材の作り手にお話を伺い、どういう思いで素材を作っているのかまで気にかけているそう。「素材の作り手の思いも和菓子に投影したいんです」(山口さん)

―――和菓子職人には繊細な感性が求められるように思います。感性を磨くためにされていることはありますか?

山口さん:磨いているという感覚はありませんが、景色を見ることが好きなので、よく外へ出かけています。趣味は、カメラやキャンプ、ランニング、スノーボード、サーフィンなど、かなり多いほうだと思います。

職業柄、景色を見ているとつい「見立て」をしてしまうことがあります。例えば、キャンプで火を見ているときに「これを形にするとどうなるだろう? お菓子で表現できないだろうか?」とか、海で熱帯魚を見たときに「この色の組み合わせは美しいな。あの材料で再現できるかな」とか、和菓子と結び付けて考えてしまうんです。運転中にふと思い浮かんで、停車して急いでメモすることもよくあります。

そうした「見立て」は、和菓子作りに生かされているのでしょうか。

五穀屋 山口良さん
同じ大きさ形になるよう、細心の注意を払い一つひとつ作り上げていく
五穀屋 山口良さん
五季・りんご酢の錦玉かんを風船に充てんしているところ

山口さん:そうですね。昨年発売した「五季(いつき)」という和菓子では、作る過程で「3回花を咲かせる」ことを大切にしています。沸騰して材料が泡立つ様子を花に例えているのですが、1回目は寒天を入れたとき。2回目は砂糖を入れたとき。3回目はあんこを入れたとき。それぞれが美しく花を咲かせることで、おいしい和菓子が出来上がるんです。

五穀屋 山口良さん
寒天が沸騰すると、美しい「花」が咲く。「ヘラの使い方で職人の腕がわかるんですよ。寒天を切りすぎず、対流を起こすことが大事なんです」(山口さん)
五穀屋 山口良さん
出来上がりを見極めるポイントは、糸の幅・色・落ちるタイミング・落ちる感覚。この絶妙な違いを見極めるのが職人のわざだ

海外からも絶賛された、発酵を使った和菓子「五季」

五季・りんご酢の錦玉かん
五季・りんご酢の錦玉かんを風船に充てんした後、流水で冷ます
五季のメディチ家でのお披露目パーティー
和菓子特有の繊細な味や食感に多くの人が驚き、購入希望者が続出。フィレンチェ市花であるユリの花をモチーフにした特別デザインのパッケージでお披露目したそう(画像提供:春華堂)

―――五季(いつき)は、イタリアの名門メディチ家で献上されたそうですね。

山口さん:はい。2015年に開催された和菓子の祭典が、フィレンチェにあるメディチ家の宮殿で行われたのですが、その際に献上させていただきました。見た目の美しさや味の奥行き、独特の食感などが大変評価され、「Bellissimo!(素晴らしい)」というお言葉をいただきました。

―――五季のテーマは、「発酵さしすせそ羊かん」とのことですが、どういう意味でしょうか。

山口さん:五季は一口サイズの玉羊かんなのですが、味が5種類ありまして、それぞれに発酵素材である「さしすせそ」を使っているんです。「酒」「抹茶塩糀」「りんご酢」「白味噌」「醤油糀」の5つです。あと、日本の季節の移り変わりである土用を合わせた5つで表しているという面もあります。春夏秋冬という4つの季節では表しきれない時節の魅力を表現しました。

―――なぜ発酵素材を使ったのですか?

山口さん:発酵素材は日本古来から受け継がれているものですし、体にもいいですよね。油を使用していないので、ヘルシーなのもポイントです。さっぱりした味わいの「りんご酢」はお風呂上がりに、まろやかな味わいの「白味噌」はお茶のおともにオススメです。

食べることは幸せなことだと感じていただきながら、ゆっくり流れる時の流れと一緒に、一口の贅沢さを味わっていただけるとうれしいです。

五季
「五季 5個入り」(1,620円)。ぷるんと弾けるみずみずしい玉羊かん。発酵のさしすせそで5つの彩り、日本の五季を表現。浜松にある「五穀屋 nicoe店」「五穀屋 松屋銀座店」のほかネット購入も可能

日本の美を表現する和菓子職人から見た、「日本女性の美しさ」とは?

―――和菓子職人である山口さんが思う、日本女性の美しさとは何でしょうか。

五穀屋 山口良さん

山口さん:日本の女性が、「私たちは日本女性なんだ」という意識を持っていること自体が、すでに美しいことだと思います。なぜなら「日本女性」という言葉を使う時点で、きっとその人の頭には、「物腰が柔らかい」とか「たおやか」とか、理想とする日本女性の姿が思い浮かんでいるはずだからです。それを意識することで、実際に和の文化に触れたり、仕草が変わってきたりすると思うんですよね。見た目うんぬんではなく、日本女性であることに誇りを持ち、和の心を大切にすることが、美しさを育むのだと思います。

春華堂
創業1887年。「うなぎパイ」でおなじみのお菓子屋。洋菓子のイメージが強いが、原点は和菓子。伝統を守る一方、進化を遂げ、2014年に新ブランド「五穀屋(ごこくや)」と「coneri(こねり)」を発表。五穀屋の商品は全て、今回取材にご協力いただいた山口さんが手掛けたもの。

取材協力: 春華堂 http://www.shunkado.co.jp/

撮影:Mina Imai