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盆栽師 平尾成志さんに聞く、BONSAIと「日本女性の美」の共通点

2016.10.21

注目の盆栽師、平尾成志さんの盆栽園「成勝園」。今年の5月、さいたま市西区にオープンしました。埼玉は盆栽のメッカ。成勝園があるところも元盆栽園で、周囲には竹林があり、静謐な空気が流れる趣深い場所です。成勝園を「盆栽を通じて人をつなぎ、盆栽の新たな可能性を発信する拠点にしていきたい」と語る平尾さん。若き盆栽師に、盆栽の魅力や日本文化を通じて見る「女性の美」について伺いました。

平尾成志さん

東福寺の方丈庭園に魅せられた学生時代

――まず平尾さんと盆栽の出会いについて教えて頂けますか?

平尾成志さん

平尾さん:僕は大学が京都だったのですが、学生時代に陸上をやっていたんですね。そこがもう日本一厳しいと言われるぐらいハードなところでした。色々しんどいことが重なったときに、東福寺の「方丈庭園」という庭を見る機会があって。重森三玲さんという作庭家が作られたものですが、その時まさに心が洗われるような感動を覚えました。盆栽に意識が向き、日本文化の継承に関わることを仕事にしたいと思ったのは、その経験がきっかけです。

――その後、就職先に盆栽園を選ばれたわけですね?

平尾成志さん

平尾さん:さいたま市の加藤蔓青園の門を叩き、弟子入りしました。就職するにあたって人と同じことはしたくないという気持ちもあり、サラリーマンはないなと思っていたので、盆栽の世界に飛び込むのに躊躇はありませんでした。蔓青園は、加藤三郎先生という日本の盆栽を海外に広めた第一人者の盆栽園です。まだ師事して間もない頃、当時90歳近かった加藤先生から「盆栽を世界に広めなさい」と言われたんですね。その言葉が胸にずっとあったので、修行時代を経て、海外に目が向いたのは自然な流れでした。

30年後を見据えて、木と向き合う盆栽の奥深さ

平尾成志さん盆栽

――平尾さんご自身は、どんなふうに盆栽に魅せられていったのでしょう?

平尾さん:盆栽の定義をすごくシンプルに言うと「鑑賞用の鉢に入った木」ということになるんですね。単なる鉢植えとは違って「鑑賞」が目的になる。また、盆栽というと、職人が無理やり枝を曲げて矯正して形を作っていると誤解されることもあるのですが、そうではありません。「木」の良さをいかに引き出すかを考えながら、20年後、30年後を見据えて作品を作っていきます。

そこには、木と自分の生命エネルギーのキャッチボールのようにも思えるプロセスがある。永遠に完成することはない、と分かるから、生涯をかける意義があるという意味で、この仕事は「一生モンだな」と思っています。

――文化庁文化交流使として海外11カ国を巡った経験は、平尾さんにとってどんな変化をもたらしましか?

平尾成志さん盆栽

平尾さん:海外の方からすると、盆栽ってすごく神秘的に感じられるところがあるみたいです。「木」という命あるものと対峙して、鉢に中に1つの小宇宙を作る。他に世界中どこにも盆栽のような文化はないですよね。それで畏敬の念を持って見てくれる感じがしました。

一方で、海外での活動を重ねるうちに、自分の中で別の疑問も湧いてきた。ミラノでパフォーマンスをしたとき、観客の1人から「自国の素晴らしい盆栽という文化のことを、日本人はほとんど知らないよね?なんで?」と聞かれたのです。その方は、日本に旅行に行った際、どの日本人に盆栽の話をしても「盆栽?よく分からない......」という反応が返ってきて不思議だったそうです。

そんなエピソードを聞いて、海外の普及というより、足元でやるべくことがあるのではないか、と思うようになりました。昨年から日本での活動を強化しています。

まずは自分以外の何かを「愛でる」ことから

――maicoの読者たちも盆栽に関しては初心者という方々が多いと思います。まず盆栽に触れる最初の一歩としておすすめなのはどんなことですか?

平尾さん:最初から頑張って盆栽を始めなくていいと思いますよ。盆栽は、「水やり3年」と言うぐらい、植物の状態を見ながら気候に応じて水をやることが大事。それができないと、すぐ枯れてしまいます。一度枯らしてしまうと、もう盆栽はいいやってなっちゃうじゃないですか?それはすごく残念なので。

平尾成志さん盆栽
尾成志さん盆栽道具

そのかわり1つ言えるのは「自分以外の何かを愛でる」ことからスタートしてみたらいいんじゃないかということ。花を飾るのでもいいし、ペットを愛することでもいいと思う。「忙しい」は「心を亡くす」というけれど、自分に一定の余裕があって、はじめて他者を愛でることができるようになると思います。

理想と現実の間にこそ宿る「美」がある

――最後に、盆栽師平尾さんが思う「日本女性の美」について教えてください。

平尾成志さん

平尾さん:「美」というのは、イコール「完成形」であると思われがちですが、僕は理想と現実の狭間にこそ美があると思います。こんなふうに美しくなりたい、という「理想」があって、今どうなのかという「現実」がある。理想だからこそ、そこには簡単に辿りつけないのだけれども、そこに向かって頑張る姿に美しさを感じるんですよね。

平尾成志さん

盆栽にも似たところがあって、盆栽も1つの形を作るのに少なくとも10年ぐらいはかかるわけです。そして、そこも通過点であって「完成」があるわけではない。数十年後の佇まいを見据えつつ、その木が持つ固有の美しさを引き出しながら作品を作っていきます。その過程は、女性が内面の美を育みながら、理想に向かって歩む姿と通じるものがあるかもしれません。

<盆栽師 平尾成志(ひらお まさし)プロフィール> 1981年徳島県出身。京都産業大学卒。大学卒業後、さいたま市盆栽町にある加藤蔓青園の門をたたき弟子入り。平成25年度文化庁文化交流使として世界11カ国を周り、盆栽を通じた文化交流を行う。2016年3月~11月瀬戸内国際芸術祭2016盆栽プロジェクト「feel feel BONSAI」総合プロデューサー。2016年5月自身の盆栽園となる「成勝園」をさいたま市西区にオープン。

成勝園
http://seishoen.com/

瀬戸内国際芸術祭 Bonsai Project
http://feelfeelbonsai.tumblr.com/

Text:Shuko Yaginuma
Photo:Mina Imai