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鎌倉時代から続く礼法の伝承者に聞く、「やまとなでしこ」になる方法

2017.04.11

鎌倉時代、源頼朝に指南したのがはじまりだといわれている「小笠原流礼法」。その三十一世小笠原清忠宗家のご子息である小笠原清基さんに、日本人が大切にすべき心の在り方や、日本女性の美しさなどを伺います。

 

 

無駄な動きを省くことで、真の美しさが宿る

小笠原流礼法、次期継承者である小笠原清基さん。ただ座っているだけなのに、凛とした自然体の美しさが漂う

―――小笠原流礼法は、「実用・省略・美」を大切にされているとのことですが、どういう意味でしょうか。

小笠原さん:無駄を省くことで、美しく調和がとれるという意味です。西洋が、装飾などを施す飾る文化であるのに対して、日本は自然と調和し無駄を削ぎ落とした簡素な美しさを追求する文化です。景色同様、人も自然体を追求してこそ真の美しさが表れるのだと思います。

―――自然体というのは?

小笠原さん:無理に飾り立てないということです。たとえば写真を撮るとき、「はい、チーズ」と言われると、多くの方がポーズをとったり、急に笑顔を作ったり、自分を演出しますよね。「少しでも美しく見られたい」という気持ちが働くからだと思います。でも、素の状態が美しいのであればその一瞬を飾り立てる必要はありません。

 

 

心の在り方は、見た目や所作に反映される

―――素の状態を美しく保つのは難しいと思います。一体どうすればいいのでしょうか?

小笠原さん:当たり前のことを当たり前にやるだけでいいのです。具体的には、呼吸と動作を合わせるということ、そして、一つひとつの動作の意味を理解するということです。

忙しいと呼吸が浅くなりますよね。すると、ゆっくりした動作、たとえばお辞儀をするようなシーンでも呼吸が速くなってしまうため、見ている人に違和感を与えてしまいます。呼吸と動作が一致していないと、ちぐはぐな印象になるのです。

一つひとつの動作を理解するというのは、単に動きを知識として成すのではなくて、なぜその動きになるのかという意味を、きちんと考え、納得して行うということです。

小笠原流は弓馬術と礼法を結びつけたものなので、海外の方が「弓を習いたい」と言って訪れることがあります。その多くは「矢が的に中りさえすればいい」と思っています。しかし、そういう方は稽古では成功するのに、本番ではミスをすることがよくあります。技術はあるのに、いざというときに失敗してしまうのです。なぜなら、的を外すのは、技の意味の理解が表面的だからです。

的を射るためには、体の向き、顔の向け方、目線の移し方など、すべての動きが重要であり、意味があります。本番で失敗してしまう人は、それら一連の動作を単に知識として覚えていることが多いように感じます。しかし、一つひとつの動きを心から理解すると、理にかなった無駄のない動きがとれるようになります。そして結果的に技術も向上します。そうした積み重ねをしていくことで、たとえばお茶を飲む、名刺を渡すなどの日常的な動作も、美しく洗練されていきますよ。

小笠原流の道場では流鏑馬(やぶさめ)の練習もできる。小笠原さんご自身は3歳から馬に乗っているそう。6歳で自転車に乗る練習をしたときには「馬に乗るときのようにすればいいのよ」と教えられたそう

―――今すぐ実践できる「美しく見える所作」があれば教えてください。

小笠原さん:そうですね、たとえばお辞儀はどうでしょう。「お辞儀をしてみてください」と言うと、多くの方が頭を下げると思います。でも、正しいお辞儀は、頭をひょこんと下げるのではなく、背筋を伸ばし、上半身をゆっくり折り曲げて行うものです。そこには「あなたを敬っています」という心があります。頭が下がるのは、上半身を折り曲げた結果にすぎません。

何事においても、動きの本質を理解することが大切ですね。そうすれば無駄な動きがそぎ落とされるので、自然体の美しさが醸し出されるようになります。

 

 

座位でのお辞儀。簡単そうに見えるが、背筋を伸ばし、上半身を水平に保つことは意外と難しい

 

 

 

 

 

 

礼法は、個性を必要としない普遍的なマナー

―――小笠原さんは、礼法を学び、継承するお立場ですが、製薬会社に勤める会社員でもあるんですよね。ビジネスで小笠原礼法が役立つシーンはありますか?

小笠原さん:そうですね。私はがんの治療薬を研究しているので、一日中座っていることが多いのですが、何時間でもやれるという気持ちはありますね(笑)。実験がうまくいかなくても決してめげませんし、流鏑馬を通して、先を読んで動く力も身についたと思います。心と体が非常に鍛えられたと感じています。

―――土日も礼法の稽古や行事があるんですよね? お忙しいと思いますが、どのようにリフレッシュをされているのでしょうか。

小笠原さん:自然を見るのが好きですね。里山のような風景が好きです。絵画はいつ見ても同じですが、自然は違います。同じように見えても、その景色はその瞬間にしか味わえません。そう思って眺めていると、自ずと自分の行動も省みることができます。「もっと1日1日を大切にしよう」と素直に思えるんです。

「正しい日本文化を伝えていきたい」と言う小笠原さん。平日の夜や土日も礼法の稽古があるため、昨年の完全オフはたった1日だったそう

―――やはり子どものころから、継承者として厳しくしつけられたのですか?

小笠原さん:いえ、わざわざしつけられたというよりは、常に生活の一部として礼法がありました。小笠原流礼法は、鎌倉時代から将軍家や大名に指南してきたものであり、いわば家庭のしつけのようなものです。決して特別な教えではありません。

ただ、その当たり前の教えが、近年はおざなりになっているように思います。「自分らしさ」というキーワードを盾に、「自分さえよければいい」「他人のために何かをしてあげるのはもったいない」というような、自分本位の思いが蔓延しているように思うんです。もちろん、「自分らしさ」を大切にするのはよいことですが、それは軸があってこそです。軸とは、個性を必要としない普遍のマナーであり、思いやりのこと。その普遍的な、軸となる部分を小笠原礼法は伝えています。

 

 

道場には、小笠原流礼法で習う項目がレベル別に掲げられている。「起つ様」「歩む様」など、多くの人が意識することなく身につけてしまった動作を改めて学べる

―――日本女性が「やまとなでしこ」に磨きをかけるために、どうすればいいと思いますか?

小笠原さん:やはり、自然体を心掛けることではないでしょうか。深い理解を伴った無駄のない動きで、相手に心地よさを与えられる女性は美しいと思います。
たとえばレストランでも、特に過剰な演出はないのに、なぜか居心地がいいお店ってありますよね。注文したいときに店主がすっと来てくれたり、コップの水がなくなりそうになったら注いでくれたり。呼吸するように自然に、相手の求めに応じられる。そういう女性は素敵だと思いますね。

 

 

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<プロフィール>小笠原清基さん 

1980年生まれ。弓馬術礼法小笠原流31世小笠原清忠宗家の長男。3歳で稽古を始め、小学5年で鎌倉の鶴岡八幡宮で流鏑馬神事の射手を務める。大阪大を卒業後、筑波大大学院にて神経科学博士を取得。「家業を生業にしない」という家訓があり、現在、製薬会社の研究員。 NPO法人小笠原流・小笠原教場 理事長、一般社団法人日本文化継承者協会 代表理事、一般社団法人蛍丸記念刀剣文化遺産伝承会 顧問、日本女子体育大学弓道部 監督 主な著書『小笠原流 美しい大人のふるまい』『疲れない身体の作り方: 実用的、効率的かつ美しい身体作法』

 

 

 

Photo:Mina Imai