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つらい時こそ「ま、いっか!」、女流棋士がたどり着いたグレーの世界

2018.05.01

人間関係やキャリアなど、なかなか自分の思い通りにいかないことって、ありますよね。「そんなときは俯瞰でとらえることが大事」と、女流棋士の高橋和(やまと)さんは言います。そこには、先を読むことが得意な棋士ならではの考え方がありました。

 

 

将棋は脳と脳の闘い!1回の対局で体重が2キロ減ることも

「将棋は、盤の前にじっと座っているだけに見えるかもしれません。でも、脳の中では駒がタタタタタッとものすごいスピードで動き回っているんです。とてもエネルギーを使うので、1回対局するだけで体重が2キロくらい減ることもあります。極限まで知力を尽くして勝負をして、勝ち、負けが明確につく。それが将棋のおもしろいところです」。

こう語るのは、女流棋士の高橋和さん。小学生から将棋を始め、中学3年生でプロ入りを果たした実力者です。対局前は、ある理由から必ずルーティンを守っていたそう。

「いつもと同じ道、飲み物など、いつも通りを守るんです。心を整える意味もありますが、それよりもむしろ、負けたときに逃げ道を作らないために行っていました。いつもと違うことをして負けたとき『あぁ、今日はあの道を通らなかったからだ』と、言い訳をしかねないからです」(高橋さん)。

将棋は「勝つか、負けるか」の厳しい世界。それゆえ、高橋さんは幼いころから「できるか、できないか」「良いか、悪いか」と、何事も白黒はっきりつけたいタイプだったそう。一時は心のバランスを崩し、自律神経失調症を患ったほど将棋や自分と真剣に向き合い、闘ってきました。

そんな高橋さんからは、勝負師らしい芯の強さがひしひしと感じられます。しかしそれでいて、こちらに向けられる笑顔はとても穏やか。最近は「白黒はっきり」ではなく「ま、いっか」も板についてきたと言います。彼女に変化をもたらしたものは何なのでしょうか。

白黒はっきりした「勝負の世界」から、子育てで知った「グレーの世界」へ

「まさか、こんな世界があったなんて......」。
29歳で現役を引退し、子育てを経験したことで、高橋さんは全く新しい「グレーの世界」を知ったと言います。

「息子が生まれたばかりのころは、何をやっても泣きやまないので『正解は何!?』と、頭をかきむしりたくなる思いでした。でも、思い通りにいかない毎日を経験することで、この世の中には、どうしようもないグレーの世界があることを知ったんです。長い目で見れば、今すぐ白黒はっきりつけなくてはいけないことなんて、そう多くはないんですよね」(高橋さん)。

「うまく付き合えるか不安だった」というママ友たちとも楽しく過ごしているそう。

「小学生のころから、私の周りにいたのは、年齢が高いおじさまや、お姉さま方ばかりでした。同年代の女性と気ままにおしゃべりをしたり、ランチをしたりする機会はほとんどなかったんですよね。だから今、ママ友たちと過ごすのが楽しいんです。今まで自分では普通だと思ってきたことが、実はかなりおかしかったと気づくことも多くて。刺激をいただいています」(高橋さん)。

白黒はっきりつけていたころの自分に何か言いたいことはありますか? と聞くと、こんな答えが返ってきました。

「あれはあれでいいと思います。曖昧にしないからこそいいことも、世の中にはありますから。現役棋士として、『勝ち』『負け』しかない世界にいたころの私は、厳しい現実を突きつけられることで、常に自分と闘っていました。自分と向き合い、闘い続けることで研鑽できた部分もあると思います」(高橋さん)。

 

 

人生も将棋も、俯瞰でとらえることが大切

現在は、自身が運営する将棋教室で、主に女性や子どもたちを相手に将棋を教える忙しい日々を送っている高橋さん。

「基本的に電池が完全に切れるまで動き続けるタイプなんです。だから、ソファでガクッと寝落ちすることはあっても、うたた寝することはありません(笑)。毎日クタクタになっていますけど、将棋を教えることが、私の天職だと思っています」(高橋さん)。

紆余曲折を経て「教える棋士」という天職を開拓した高橋さんは「今が一番幸せ」だと言います。

「現役棋士として闘っていたころは、ファンの方の期待に応えられずに負けてしまうと、自分を追い込むこともありました。でも、人生には良いときも悪いときもあります。それは当たり前のことなので、たとえ悪い状態に陥っていたとしても、『もうダメだ~』と、自分で呪いをかけないようにしています。『今はそういうときなんだ』と、事実として受け止めることが大切だと思います」(高橋さん)。

自分の運が低迷していると感じたら、ふつうは「早くここから抜け出したい」と、もがいてしまうもの。でも、そうしない高橋さんには、棋士ならではの考えが根底にあるようです。

「将棋は、先を読む競技です。一見、悪い手のようでも、実はそれが後々効いてくる良い手であることもあります。だから、その瞬間だけを見て、喜んだり悲しんだりすることはあまり意味がありません。大切なのは俯瞰でとらえること。そうすればいつか必ず、次の局面が訪れますから」(高橋さん)。

棋士として培われた「俯瞰でとらえる力」と、子育てを通して知った「グレー」の世界。この2つが融合したことで、高橋さんはさらに「生きやすい人生」を手に入れたのかもしれません。私たちも、つらい時こそ「ま、いっか」と思って、じたばたせずに時機を待つ。そうやって、おおらかに構えることは、自分らしい人生を送るヒントになりそうですね。

 

 

高橋さんが運営している将棋教室「将棋の森」。主に子どもや女性たちを相手に、ゼロから将棋を教えています。初心者の人も取り組みやすいように、正座ではなくイスに座るスタイル。

 

 

<取材協力>女流棋士 高橋和さん
1991年14歳でプロとなり、2004年に女流棋士二段、29歳で現役を引退。「将棋の森」代表。一般社団法人「日本まなび将棋普及協会」代表理事。子どもへの普及活動に力を注いでおり、将棋が子どもに与える影響を記した『頭の良い子は将棋で育つ』(幻冬舎刊)や、ゲーム絵本『ぴょんぴょんしょうぎnew!』(幻冬舎刊)など、著書多数。

 

 

 

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Photo:Kayo Takashima